鮭は、なぜ戻れなくなったのか 記録的な低さが続く「回帰率」の話
COLUMN / たべものの話
鮭は、なぜ戻れなくなったのか
記録的な低さが続く「回帰率」の話
秋の食卓に鮭が届くのは、あたりまえのことのように思えます。しかし、その鮭が生まれた川に戻ってくる割合を示す「回帰率」は、いま記録的な低さにあります。水産庁や国立研究開発法人水産研究・教育機構の資料から、鮭という魚に何が起きているのかを整理しました。
鮭は、川で生まれ、海で数年を過ごし、再び生まれた川へ帰ってくる魚です。この「帰ってくる」という行動があるからこそ、稚魚を放流し、親魚を迎えて漁をするという、サケ漁業の仕組みが成り立っています。ところが近年、この「帰ってくる力」そのものが弱くなっていることを示すデータが、公的機関から相次いで発表されています。
1数字で見る、「回帰率」の記録的な低さ
水産研究・教育機構は、サケが4年魚でもっとも多く回帰することから、4年前の放流数に対する来遊数の割合を「単純回帰率」として毎年公表しています。北海道のデータをたどると、その低下ぶりがはっきり見えてきます。
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| 年度 | 北海道の単純回帰率 |
|---|---|
| 1989年度 | 3.35% |
| 1995年度 | 5.47% |
| 2010年度 | 3.84% |
| 2020年度 | 1.76% |
| 2024年度 | 1.83% |
| 2025年度 | 0.78% |
出典:国立研究開発法人水産研究・教育機構「サケの放流数と来遊数及び回帰率の推移」(全国の単純回帰率も2025年度は0.66%と、全国計でも過去最低の水準)
北海道の地方独立行政法人・北海道立総合研究機構が2025年6月に公表した資料でも、2025年の全道への秋サケ来遊数は前年比64.5%にとどまると予測されており、前年である2024年の来遊数自体も、前年比78%・令和元年とほぼ同じ水準まで落ち込んでいたと報告されています。不漁が一年だけの出来事ではなく、数年にわたって続いている変化であることがわかります。
2鮭の、数千キロの旅
農林水産省の解説によると、北海道で放流された鮭の稚魚は、春から初夏にかけてオホーツク海南部へ移動し、その後は北太平洋西部で冬を越え、翌年にはベーリング海からアラスカ湾まで南下するという、数年がかりの回遊を続けます。生まれた川に戻ってくるまでの間、鮭はこれだけの距離を泳ぎ切っているのです。ただし、放流した稚魚のうち実際に成魚となって戻ってくるのは、もともとわずか3〜5%程度とされています(出典:農林水産省)。もとから厳しい旅ではあったものの、前の章で見た回帰率は、この「もともとの厳しさ」をさらに下回る水準まで落ち込んでいることになります。
3背景にある、「海があたたかくなっている」ということ
水産庁の資料は、鮭の回帰率低下について「寒流である親潮の南下が弱まり、稚魚に適した水温の期間が短くなっていること」「稚魚がオホーツク海へ回遊しにくくなっていること」「餌となる環境が悪化し、稚魚の生き残りが悪くなっていること」を指摘しています。加えて、ベーリング海でカラフトマスが増えたことによる餌の競合も一因とみられています。農林水産省の資料では、日本近海の平均海面水温は1980年と比べて約1度上昇しており、各地で獲れる魚が北上するなどの生息環境の変化が、川へ帰る鮭の減少を招いたと推測されています。
4それでも、秋の食卓に鮭を迎える
資源が厳しい状況にあるとはいえ、鮭は良質なたんぱく質やビタミンDを含む食材として、昔から秋の食卓を支えてきました。文部科学省の食品成分表によると、しろさけ(生)には次のような栄養が含まれています。
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| 成分 | 可食部100gあたり |
|---|---|
| エネルギー | 124kcal |
| たんぱく質 | 22.3g |
| 脂質 | 4.1g |
| ビタミンD | 32.0µg |
| ビタミンB12 | 5.9µg |
出典:文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)増補2023年」
数量が限られている年だからこそ、獲れたときに、獲れた分だけをありがたくいただく。鮭という魚の長い旅路を知った上で向き合うと、秋の一皿が少し違って見えてくるのではないでしょうか。
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よくある質問
Q. 鮭の「回帰率」とは何ですか?
A. 稚魚を放流した数に対し、親魚となって戻ってくる数の割合です。水産研究・教育機構は、鮭が最も多く回帰する4年魚を基準とした「単純回帰率」を公表しており、北海道では2025年度に0.78%と記録的な低さになっています(出典:水産研究・教育機構)。
Q. なぜ鮭は戻ってこなくなっているのですか?
A. 水産庁の資料では、親潮の南下が弱まり稚魚に適した水温の期間が短くなっていること、オホーツク海への回遊が妨げられていること、ベーリング海でのカラフトマスとの餌の競合などが指摘されています。農林水産省も、日本近海の海面水温が1980年と比べて約1度上昇したことが背景にあると説明しています(出典:水産庁、農林水産省)。
Q. 鮭はもともとどのくらいの割合で帰ってくるものだったのですか?
A. 農林水産省によると、放流した稚魚のうち実際に成魚となって戻ってくるのは、もともとわずか3〜5%程度とされています。現在の回帰率は、それよりもさらに低い水準まで落ち込んでいます(出典:農林水産省)。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の効果効能を保証するものではありません。体調や体質には個人差がありますので、気になる症状がある場合や持病のある方は、医療機関にご相談ください。