ネオニコチノイド系農薬とは何か。野菜の見分け方と、食卓で今日からできること
COLUMN / たべものの話
ネオニコチノイド系農薬とは何か
野菜の見分け方と、食卓で今日からできること
ミツバチへの影響、EUでの規制強化、人への影響についての研究報告——断片的な情報は増えていますが、科学的に確認されていることと、まだ研究途上にあることが混ざって伝えられていることも少なくありません。公的機関の情報をもとに、できるだけ正確に整理します。
スーパーの棚に並ぶ野菜を見て、「これは安全なのだろうか」と思ったことはあるでしょうか。産地表示や価格を見ても、その野菜にどんな農薬が使われているかはわかりません。「減農薬」と書かれていても、それが何を意味するのかは曖昧なままです。
1ネオニコチノイド系農薬とは何か
ネオニコチノイド系農薬は、一九九〇年代から広く使われるようになった殺虫剤です。タバコに含まれるニコチンに似た化学構造を持ち、昆虫の神経伝達を阻害することで害虫を駆除します。日本国内では農林水産省に農薬として登録され、合法的に使用されています。
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| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 代表的な成分 | アセタミプリド、イミダクロプリド、クロチアニジン、チアメトキサム、ジノテフラン、ニテンピラム |
| 浸透性 | 水に溶けやすく、作物の茎や葉に浸透する。維管束を通じて内部に取り込まれる |
| 残効性 | 長期にわたり農作物に残留することが確認されている |
| 洗浄で落ちるか | 内部に浸透するため、表面を洗い流すだけでは除去できない |
この「浸透性」と「残効性」が、従来の農薬との決定的な違いです。外側から散布された農薬とは異なり、植物の内部に取り込まれるため、洗っても落ちません。
2わかっていること、議論中のこと
生態系への影響は、多くの研究で関連が示されています。ミツバチなど花粉媒介昆虫への影響について報告が重ねられ、EUは2018年4月に三種類のネオニコチノイド系農薬(イミダクロプリド、クロチアニジン、チアメトキサム)の屋外使用を全面禁止しました。
一方、人への影響については、相反する結果が報告されています。2023年の国立環境研究所によるエコチル調査では、妊娠中の母親の尿中ネオニコチノイド濃度と子ども(〜4歳)の発達スクリーニング検査スコアとの間に、統計的に有意な関連は見られないと結論づけられました。他方、2025年に発表された中国・深圳の研究では、未就学児の尿中濃度と行動発達の関連が調査され、一部の代謝物濃度が高いほど情緒症状や多動性のリスクが有意に増加する相関が報告されています。
EFSA(欧州食品安全機関)の専門家パネルもアセタミプリドの発達神経毒性について評価を継続しており、相関関係と因果関係は別のものである以上、まだ結論には至っていません。
このコラムの立場:人への健康影響については「リスクが証明されている」とも「安全が証明されている」とも、現時点では言い切れません。ただし科学的な議論が続いており、EUをはじめ多くの国が予防的な観点から規制を強化している事実は確かです。食材を選ぶ判断材料として、この状況を正確に知っておくことには意味があります。
3日本の基準は、世界とどう異なるか
日本のネオニコチノイド系農薬の残留基準値は、欧米に比べて緩やかです。注目すべきは、その方向性です。日本は2015年から2017年にかけて、ネオニコチノイド系農薬四種(イミダクロプリド・チアメトキサム・クロチアニジン・アセタミプリド)の残留基準値の緩和を行いました。EUや米国、台湾、韓国が規制を強化する方向に動いているなかでの変化でした。
EUは花粉媒介昆虫の保護を目的として、クロチアニジンとチアメトキサムの残留農薬基準値(MRL)を検出下限値まで引き下げ、2026年3月から輸入農産品にも適用しています。EUや台湾では残留農薬量が基準を超えるとして受け入れられない日本のいちごやみかんがあり、国内向けと海外輸出向けで畑を分けている農家も存在します。
国内の食品安全基準を満たしていても、海外の基準では流通できないことがある——この事実は、「国産だから安全」という前提が一概には成立しないことを示しています。
4残留リスクが高いとされる品目・低いとされる品目
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| 区分 | 品目 | 理由 |
|---|---|---|
| 高いとされる | 葉物野菜 | 葉の表面積が大きく付着しやすい。根から成分を吸い上げやすい構造。加熱しても分解されにくく、生食の機会が多い |
| 高いとされる | きゅうり・なす・ピーマン | アブラムシやコナジラミがつきやすく、農薬の使用頻度が高い |
| 高いとされる | お米 | カメムシ防除に多用される。毎日摂取する主食であるため農法の確認が重要 |
| 高いとされる | お茶 | 茶葉に残留した成分がお湯で抽出される過程に関する研究がある |
| 低いとされる | ごぼう・人参・大根などの根菜、キャベツの内葉、玉ねぎ | 皮を厚く剥く、外皮を除くなど。ただし浸透性ゆえに、外側を除去すればゼロという保証はない |
「減農薬」という表示について:ネオニコチノイド系農薬のように強力な殺虫力を持つ農薬は、量や散布回数が少なくて済むため「減農薬」と記載できます。減農薬はネオニコチノイド不使用を意味しない——ここは知っておきたい点です。
5食卓で、今日からできること
① 有機JAS認証を確認する。有機JAS認証を取得した農産物は、化学合成農薬・化学肥料を原則不使用で栽培されたものです。ネオニコチノイド系農薬も使用できません。日常の食材選びの基準として、もっとも確実性が高い選択肢です。なお「農薬不使用」「化学肥料不使用」という表現は認められていますが、「無農薬」という表示は農林水産省のガイドラインにより現在は使用できません。この違いを知っておくと、表示の信頼性を判断しやすくなります。
② 生産者情報が具体的に開示されているかを確認する。有機JAS認証を持っていなくても、農薬不使用で栽培している農家はたくさんあります。重要なのは自己申告ではなく、「どの農家が、どの農地で、どのような農法で」という情報が具体的かつ継続的に開示されているかどうかです。
③ リスクが高いとされる品目から優先的に切り替える。すべてを一度に変えるのが難しい場合、毎日食べるお米、皮ごと食べるいちご、生食する機会の多い葉物野菜から切り替えることが、現実的な一歩になります。
地球人倶楽部が1988年から変えていないこと
2026年現在、ネオニコチノイド系農薬は複数の成分が農林水産省の農薬登録を維持しており、日本国内の農業では合法的に使用が続いています。再評価は進行中ですが、登録が取り消されない限り使用は認められているのが現状です。EUが主要三成分の屋外使用を全面禁止し、2026年3月からは輸入農産物の残留基準も引き下げた動きとは、大きく異なる状況にあります。
地球人倶楽部が創業した1988年は、まだこの農薬が広く使われる前でした。それから約四十年、私たちが選んできた基準は変わっていません。作り手がわかり、農法がわかる食材を、毎週の宅配でお届けしています。
よくある質問
Q. ネオニコチノイド系農薬は、洗えば落ちますか?
A. 落ちるとは言い切れません。ネオニコチノイド系農薬は水に溶けやすく、作物の維管束を通じて内部に取り込まれる浸透性を持ちます。表面を洗い流すだけでは除去できず、加熱でも分解されにくいとされています。
Q. 「減農薬」と書かれていれば、ネオニコチノイドは使われていないのですか?
A. いいえ。ネオニコチノイド系農薬は殺虫力が強く、量や散布回数が少なくて済むため、使用していても「減農薬」と表示できます。減農薬はネオニコチノイド不使用を意味しません。確実性が高いのは有機JAS認証の確認です。
Q. 日本と海外では、規制はどう違いますか?
A. EUは2018年4月にイミダクロプリド・クロチアニジン・チアメトキサムの屋外使用を全面禁止し、2026年3月からは輸入農産品にも厳しい残留基準を適用しています。一方、日本は2015年から2017年にかけて四成分の残留基準値を緩和しました。規制の方向性が逆になっている状況です。
参考にした資料
内閣府 食品安全委員会「ネオニコチノイド系農薬の再評価に係る食品健康影響評価」(2025年)/同「農薬評価書 イミダクロプリド(評価書案)」(2025年)/農林水産省「EUにおけるクロチアニジンとチアメトキサムの残留農薬基準値(MRLs)引き下げについて」(2023年)/同「諸外国における残留農薬基準値に関する情報」/国立環境研究所「母親の尿中ネオニコチノイド系農薬等濃度と子どもの発達との関連について——エコチル調査」(2023年)/EFSA(欧州食品安全機関)「アセタミプリドの発達神経毒性に関する声明」(2022年)/欧州委員会「クロチアニジン・チアメトキサムの残留農薬基準値改正規則」(2023年施行)/深圳市の研究「未就学児の尿中ネオニコチノイド濃度と行動発達の関連」(2025年)
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※本記事は、農薬と食品表示に関する一般的な情報を、公的機関の公表資料をもとに整理したものです。医療上のアドバイスや特定の診断・治療を推奨するものではありません。農薬規制の基準値は改定されることがあります。最新情報は各機関の公式情報をご確認ください。