花の香りを持つ豆が、
世界のチョコレートを支えている
エクアドルには、ジャスミンやオレンジの花のような香りを持つカカオがある。原産の「ナシオナル種」、通称「アリーバ」と呼ばれる品種だ。
「アリーバ」とは、グアヤス川をさかのぼった上流の栽培地帯を指す地理的な呼び名である。世界のカカオの多くが持つ渋みや酸味の強い香りとは異なり、この品種は際立って華やかな花の香りを持つことで知られている。
2021年、学術誌に発表された研究は、この香りの正体をモノテルペン類、特にリナロールという成分にあると突き止めた。リナロールはラベンダーや柑橘系の花にも含まれる香気成分で、ナシオナル種の生合成の仕組みが、科学的に少しずつ解き明かされている。
国際ココア機関(ICCO)によれば、世界のファインフレーバーカカオ(風味を評価される高品質カカオ)の輸出のうち、エクアドル一国でおよそ3分の2を占めるという。世界のチョコレートの香りの多様性の、かなりの部分をこの国が担っていることになる。
エクアドルとカカオの関わりは古い。19世紀末から20世紀初頭にかけて、この国は一時、世界最大のカカオ輸出国だったとされる。その後、病害や世界大戦の影響で生産は落ち込んだが、花の香りを持つナシオナル種という個性は、いまも世界のチョコレート産業にとって欠かせない存在であり続けている。
一つの品種が、世界の香りの多様性を支えている
出典:国際ココア機関(ICCO)公式サイト、Frontiers in Plant Science(2021年)ほか。
同じカカオでも、育つ土地によってこれほど違う香りを持つというのは、驚くべきことだ。読者のみなさんが手にするチョコレートの奥に、こうした一つの品種の物語が隠れていることもある。
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