海の暖流が、
牧草の緑を一年中保っている
アイルランドの牧草地は、一年を通して驚くほど緑が絶えない。北大西洋を流れる暖流が、この島の気候をやわらかく保っているからだ。
メキシコ湾からの海流の名残がアイルランド沿岸の海水温を押し上げ、同じ緯度の他の地域よりも冬が穏やかで、雨の多い温暖な気候を生む。この気候のおかげで牧草がほぼ一年中育ち続け、牛を舎飼いせずに外で過ごさせることができる。
アイルランドの業界団体ボード・ビアが定める基準では、牧草飼育の牛群は年平均で240日ほどを屋外で過ごし、飼料の平均95%が牧草でまかなわれるとされる。北欧やアジアの多くの酪農地帯では舎飼いが中心であることを思えば、これは island ならではの環境が可能にした、珍しい飼育スタイルだといえる。
2012年、業界団体ボード・ビアは「Origin Green」という、国レベルでの持続可能性検証プログラムを立ち上げた。農場から加工、輸出に至るまでの一連の流れを対象にした、国を挙げての仕組みである。
牧草を中心に育った牛の乳は、成分にも違いが表れる。テアガスク(アイルランド農業食品開発局)などの研究によれば、牧草比率の高い飼育をした牛の乳は、オメガ3脂肪酸が大きく増加し、共役リノール酸(CLA)も倍以上に高まるという。牛が食べるものが変われば、乳の質そのものが変わる——海の暖流から始まった話が、最後は一杯の牛乳の成分にまでつながっている。
暖流が生んだ気候が、牛の暮らし方を決めている
出典:Bord Bia(アイルランド食品委員会)、Teagasc(アイルランド農業食品開発局)ほか。
牛がどこでどう過ごすか、というただそれだけのことが、乳の成分にまで影響している。読者のみなさんが手に取る乳製品の背景にも、その土地の気候が静かに関わっているのかもしれない。
※本ページでご紹介した統計は、各出典(本文中に記載)の公表時点のものです。
※本ページの内容は食文化・食養生に関する一般的な話題のご紹介であり、特定の効果効能を示すものではありません。