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旅と養生 VOL. 25 — ETHIOPIA

伝説が生まれた森に、
もうひとつの豊かな実りがあった

エチオピア高地の森に自生するコーヒーの実
エチオピア高地の森に自生するコーヒーの実(イメージ)

エチオピア南西部、カッファ地方の森には、ヤギ飼いの少年カルディにまつわる言い伝えが残る。ある実を食べたヤギたちが、夜も眠らず飛び跳ねていた——そこから見つかったのがコーヒーだった、という物語だ。

この話が文献に初めて登場するのは17世紀のことで、出来事があったとされる9世紀からは大きな隔たりがある。学者たちの多くは、これを史実というより後世に語り継がれた伝説として扱っている。それでも、コーヒーの木(アラビカ種)が植物としてこの高地の森を原産地とすることは、植物学的にはっきりと裏付けられている。標高1000メートルを超える森の下草として、いまも野生のコーヒーが自生している。

同じ高地には、もう一つの実りがある。「テフ」と呼ばれる、粒がケシ粒ほど小さな穀物だ。エチオピアの主食パン「インジェラ」の原料であり、鉄分やカルシウムを豊富に含み、グルテインを含まないという特徴を持つ。栽培化の年代は研究によって幅があるが、数千年前にはすでにこの地で育てられていたとされる。

小さな粒のテフと、発酵させたインジェラの生地
小さな粒のテフと、発酵させた生地(イメージ)

テフの粒は非常に小さいため、皮を取り除く精製の必要がなく、粒全体をそのまま挽いて使うことができる。表皮ごと食べることになるため、鉄分やカルシウムといったミネラルが、そのまま無駄なく取り込まれる。小ささが、かえって栄養の豊かさを守っているというわけだ。

コーヒーもテフも、同じ高地の気候と土壌から生まれた実りである。一方は伝説とともに世界中に広まり、もう一方はいまも主にこの土地の食卓を支え続けている。どちらも、エチオピアの高地という同じ場所から芽吹いたものだ。

同じ高地が、二つの実りを育てた

17世紀 ヤギ飼いカルディの伝説が、文献に初めて登場したとされる時期
鉄分・カルシウム豊富 皮ごと挽くテフが、精製穀物より多くのミネラルを保つ理由

出典:植物学的コンセンサスに基づく資料(PMC等)、エチオピア国際食糧政策研究所(IFPRI)資料ほか。

伝説と科学、その両方が同じ土地から生まれているというのは、なんだか面白い巡り合わせだ。読者のみなさんが日々口にするコーヒーの向こうにも、あまり知られていないもう一つの実りが、静かに育っている。

高地の森が、静かに二つの実りを育てている

伝説と科学が同じ土地から生まれたエチオピアの物語。地球人倶楽部も、土地の力が育てた食材の豊かさを大切にお届けしています。

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※本ページでご紹介した統計は、各出典(本文中に記載)の公表時点のものです。

※本ページの内容は食文化・食養生に関する一般的な話題のご紹介であり、特定の効果効能を示すものではありません。

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