レシピ からだのはなし English
旅と養生 VOL. 24 — MEXICO

石灰水にくぐらせる一手間が、
飢えを遠ざけた

メキシコ、トウモロコシの生地でつくるトルティージャ
トウモロコシの生地を延ばす手仕事(イメージ)

メソアメリカの人々は、遠い昔からトウモロコシを石灰水にくぐらせてから食べてきた。「ニシュタマリゼーション」と呼ばれるこの下ごしらえには、経験だけでは辿り着けない科学が隠れていた。

トウモロコシの粒を石灰水に浸し、加熱してから一晩置く。皮を取り除いた粒を挽いて生地にする——このひと手間が、トルティージャの土台になる。考古学的には、オルメカ文明が栄えた紀元前1200年ごろの遺跡から、すでにこの加工に使われた道具の痕跡が見つかっているとされる。

トウモロコシに含まれるナイアシン(ビタミンB3)は、そのままでは大部分が体に吸収されない形で存在している。ところが石灰などのアルカリ処理を経ると、この結びつきがほどけ、ナイアシンが体に取り込める形に変わる。メソアメリカの人々は、その仕組みを知らないまま、経験だけでこの技術にたどり着いていた。

石灰水に浸したトウモロコシの粒
石灰水に浸したトウモロコシの粒(イメージ)

この一手間の価値がはっきり見えたのは、皮肉にも、この技術を持たない土地でのことだった。18世紀のヨーロッパ南部、19世紀末から20世紀初頭のアメリカ南部では、トウモロコシを主食としながらこの下ごしらえをしなかったために、ナイアシン欠乏症「ペラグラ」が広がった。アメリカでは1920年代までに、12万人以上がこの病で命を落としたとされている。

一方、同じようにトウモロコシを主食としてきたメソアメリカの地では、ニシュタマリゼーションのおかげでペラグラがほとんど見られなかった。2010年、ユネスコはメキシコの伝統料理を無形文化遺産に登録し、その調理技法の一つとしてこのニシュタマリゼーションを明記している。

知らずに実践していた、栄養の科学

紀元前1200年頃 オルメカ文明の遺跡に、ニシュタマリゼーションの痕跡が見られるとされる時期
2010年 メキシコの伝統料理がユネスコ無形文化遺産に登録された年

出典:UNESCO Intangible Cultural Heritage(2010年登録)、米国公衆衛生局の歴史的調査記録ほか。

一手間かけることの意味は、時に何百年も経ってから科学によって証明される。石灰水にくぐらせるという、ごく当たり前の下ごしらえに、これほどの物語が隠れていたことに驚かされる。

一手間が、栄養の在り方を変えている

経験の知恵が科学の裏付けを持っていたメキシコの下ごしらえ。地球人倶楽部も、昔ながらの手仕事に宿る意味を大切にした食品をお届けしています。

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※本ページでご紹介した統計は、各出典(本文中に記載)の公表時点のものです。

※本ページの内容は食文化・食養生に関する一般的な話題のご紹介であり、特定の効果効能を示すものではありません。

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