遊牧民が運んだ発酵が、
世界の朝食を変えた
「ヨーグルト」という言葉は、もともとトルコ語の「yoğurmak(こねる、凝固させる)」という動詞から生まれた。1070年代に編まれたテュルク語の辞典には、すでにこの言葉が記録されている。
中央アジアの遊牧民たちは、家畜を追いながら暮らす中で、乳を発酵させて保存性を高める術を身につけていった。乳をそのまま置いておけば傷むが、発酵させれば日持ちがし、しかも消化しやすくなる。移動を続ける暮らしの中で生まれた、理にかなった知恵だったのだろう。
その文化がアナトリアの地に根づき、トルコ独自のヨーグルト文化として花開いた。中でも「スュズメ・ヨウルト」と呼ばれる水切りヨーグルトは、布で漉して水分(乳清)を取り除き、タンパク質を凝縮させた濃厚な一品として親しまれている。
この東方の発酵乳が世界に知られるきっかけを作ったのは、1907年、パスツール研究所の研究者イリヤ・メチニコフだった。ブルガリアの人々の長寿と乳酸菌の関係に着目した彼の研究は、大きな反響を呼んだ。
この研究に触発された一人が、テッサロニキ出身のイサク・カラソだった。パスツール研究所ゆかりの乳酸菌を使い、1919年、息子の愛称にちなんで「ダノン」を創業する。当初は薬局で、健康のための一品として売られていたという。遊牧民の知恵が海を渡り、世界的な食品ブランドの原点になったのである。
移動する暮らしが、発酵の知恵を育てた
出典:Dīwān Lughāt al-Turk(11世紀)、Danone公式沿革ページほか。
今日、世界中の朝食の定番になったヨーグルト。その源流をたどっていくと、中央アジアの草原を移動しながら暮らした人々の、名もなき工夫にたどり着く。読者のみなさんの食卓のヨーグルトにも、そんな長い旅の記憶が宿っているのかもしれない。
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