どんぐりを選んだ豚が、
森を守る仕事をしている
スペイン南西部からポルトガルにかけて、樫の木がまばらに立つ独特の景観が広がっている。畑でも森でもない、その中間のような土地は「デエサ」と呼ばれる。
起源はレコンキスタの時代、13世紀ごろまで遡るとされる。放牧地を囲い込む中世の制度から少しずつ形づくられてきたこの土地は、樫の木を伐らずに残し、その下で家畜を放つという知恵の産物だった。木を守ることが、そのまま牧草地を守ることにつながっていた。
この土地で育つのが、黒い蹄を持つイベリコ豚である。秋、樫の実(ベジョータ)が地面に落ちる季節になると、豚たちは森を歩き回り、自分の力でどんぐりを探して食べる。この時期を「モンタネーラ」と呼ぶ。
どんぐりに多く含まれるオレイン酸は、豚の体に取り込まれると脂肪の質そのものを変える。モンタネーラを終えた豚の脂肪は、オレイン酸の比率が半分を超えるまでに変化するという。オリーブオイルと同じ脂肪酸を、豚が自分の脂に蓄えているということでもある。
スペイン政府は2014年、この豚の格付け制度を法律で定めた。どんぐりだけで育った最上級には赤いラベルが与えられ、放牧に必要な森の面積まで細かく規定されている。豚一頭あたり、樹冠が覆う面積でおよそ1ヘクタール前後が目安とされる。豚を育てるために、まず森の広さが問われるという、少し珍しい発想の制度である。
森の広さが、肉の質を決めている
出典:スペイン王令(Real Decreto 4/2014)、スペイン環境省(MITECO)資料ほか。
デエサの一部、シエラモレナの樫林は2002年にユネスコの生物圏保護区にも登録された。木を伐らずに残す選択が、結果として広大な森を守り続けている。豚を育てる話のはずが、気づけば森を守る話になっている。この土地では、その二つがもともと同じことなのだろう。
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