肌に一番近い場所から、
世界のオーガニックが始まっている
「からだのはなし」と聞いて、多くの方は口に入れるものを思い浮かべるだろう。けれど、からだに触れているのは食べ物だけではない。一日中肌に触れ続ける衣類もまた、からだと向き合う大切な選択のひとつだ。その衣類の代表的な素材である綿花で、いまインドが世界のオーガニックを静かに支えている。
インドは、世界のオーガニックコットン生産量のおよそ4割を占める、圧倒的な最大生産国だ。2位以下にトルコ、中国、タンザニアなどが続くが、その差は大きい。インドの各地には、農薬や化学肥料に頼らず綿花を育てる小規模農家が数多く存在し、それらの営みの積み重ねが、世界の"オーガニックな肌ざわり"を支えている。
この背景には、インドという国が抱える農業の多様さがある。国土の広さと気候の幅広さゆえに、地域ごとにまったく異なる農法が育まれてきた。近代的な化学農業が急速に広まった一方で、伝統的に農薬をほとんど使わない農法を続けてきた地域も少なくない。オーガニックコットンの生産量の大きさは、こうした土地に根づいた営みの厚みそのものを映し出している。
その象徴的な例が、インド北東部、ヒマラヤ山脈の麓に位置する小さな州、シッキム州だ。2003年、当時の州首相が「州全体を有機農業に転換する」という宣言を掲げたことから、長い挑戦が始まった。化学肥料と農薬の販売・使用を段階的に禁止し、農家への技術支援を重ねること十数年。2016年1月、シッキム州はおよそ7万5,000ヘクタール、6万6,000戸の農家が携わる農地の転換を終え、正式にインドで最初の「完全有機州」として認定された。
この挑戦は、決して平坦な道のりではなかった。転換の過程では、生姜の収穫量が以前の3分の1にまで落ち込んだ地域や、豆類の収穫量が7割近く減少した地域もあったと報告されている。認証にかかる予算の多くが農家への直接支援よりも認証手続きそのものに費やされ、有機栽培に切り替えても農産物の価格が思うように上がらなかったという声もある。それでもシッキムは転換をやめなかった。理想を掲げるだけでなく、そこに至るまでの痛みも含めて記録されているからこそ、この宣言には重みがある。
肌に触れる素材が、大地とつながっている
出典:世界のオーガニックコットン生産量に占めるインドの割合=Textile Exchange「Organic Cotton Market Report」。シッキム州の有機化=インド国内報道(Down To Earth、Better India、Forbes等)に基づく。転換過程での収量減少等の課題も同報道による。
食べるものと同じように、肌に触れるものにも、それがどんな土地で、どんな手間をかけて育てられたのかという物語がある。オーガニックコットンのTシャツ一枚の向こうに、インドの小規模農家たちの日々の営みや、シッキム州が十数年かけて積み重ねてきた挑戦の記録が眠っている。
読者のみなさんが普段何気なく袖を通している衣類も、たどればどこかの土地の農家の手に行き着く。からだのはなしは、口に入れるものだけでなく、肌に触れるものにまで広げてみると、また少し違った景色が見えてくるのかもしれない。
インドの綿花農家とシッキム州の挑戦が、世界のオーガニックな肌ざわりを支えている。地球人倶楽部が届ける食材も、同じように、土地の物語ごと食卓に届けたいと思います。
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