第7回 食について思うこと

2009年11月23日

アメリカのGMO(遺伝子組換えトウモロコシ) の作付け率が、ここ数年で 急速に伸びています。2005 年度52%、2006 年度61%、2007 年度73%、 そして今年2008 年度は、90%にもなろうとしています。
背景にあるのは、アメリカ政府がガソリンの代替燃料としてバイオエタノール を奨励することを打ち出したこと。これによって原料であるトウモロコシの価 格が急騰し、多くの生産者が単位面積当たりの収穫量が多いGMOトウモ ロコシの作付けに流れているのです。

 トウモロコシの価格が低迷していた時期は、プレミアムをつけて買ってもら えるNon-GMO(非遺伝子組換え) トウモロコシを作るメリットがありました が、エタノール市場が有力な買い手となってきた現在、害虫耐性を持ち、 農薬を使わないで生産できるGMOトウモロコシは、手間もコストを省け、さ らに密植による生産効率を引き上げ、連作も容易になることで、いっせい にGMOの作付けを増やしているのです。日本はトウモロコシの自給率0% であることは皆様もご存知のことと思いますが、そのほとんどがアメリカから の輸入です。現在日本に輸入されているものは、Non-GMOトウモロコシ で、それぞれ食品用、ビールコーンスターチ用、飼料用として利用されて いますが、2008 年度秋以降のNon-GMOトウモロコシの確保は大変難し い状況になってきています。穀物価格が高騰している中で、Non-GMOト ウモロコシの確保は、さらにそのプレミアムが過去の数倍にも達する見込み で、食品メーカー、ビールメーカー、そして飼料としてトウモロコシを食べ させている畜産、酪農業界は頭を抱えている状況です。
 1999 年、アメリカ コーネル大学のジョン・ロージらによって、Btコーン( アメ リカで栽培されているGMOトウモロコシ) の花粉が、標的外昆虫であるオオ カバマダラ蝶の幼虫を殺すという実験結果を発表し、大きなセンセーション を巻き起こしました。これを機に、世界各地で遺伝子組換え作物による環境へ の影響に関する懸念が広がり、反対運動がヨーロッパから世界に広がった のです。オオカバマダラという蝶は、アメリカの国蝶にもなっているきれいな 黒とオレンジの羽を持つマダラチョウの仲間で、北米各地に分布するなじみ の深い蝶であることから、生物多様性の脅威としてとらえられたのです。

 Btとは、バチルス・チューリンゲンシスという細菌の殺虫毒素の遺伝子 です。このBtを組み込んでも標的となる害虫しか殺さないから安全だし、 環境への影響も大丈夫と言われていました。しかし、この実験で、他の 昆虫にも影響の及ぶ可能性のあることが認められたのです。Btトウモコシの 根からBt毒素が染み出して、土壌を汚染していることも1999 年12月号 の「Nature(ネイチャー)」に掲載されました。土壌の微生物がBt毒素によっ て変化すれば、生態系が崩れたりすることが、懸念されるようになったの です。更には人へのアレルギーへの影響なども含め、Btコーンが環境や 人間に影響がないという条件が崩れたのです。

 2002 年5 月。米国農務省の農業研究部に率いられた研究チームが、Bt コーンはオオカバマダラに無害という報告を出しました。この研究はオオ カバマダラに影響を引き起こすBtコーンの花粉の量とオオカバマダラが自 然状態の下でこの量に遭遇する機会に焦点を当てて研究を進め、オオカ バマダラが影響を受ける量の花粉に遭遇するチャンスは1%未満であり、 自然の状態で影響をうけることはないと結論しています。1999 年のコーネ ル大学の論文発表直後、欧州委員会は、遺伝子組換え作物の全面凍結 を発表しました。
その後アメリカが反論して、以上のような論文を発表しているわけですが、 どちらにしてもいまだ決着はしていないのです。
 ヨーロッパは、穀物自給率は国によって多少の差はありますが、ほぼ 100%です。国民に対する食の安全性に対して、毅然とした姿勢を示す ことができるのです。

 以上お話をしてきたことでおわかりのことと思いますが、2008 年以降の Non-GMOトウモロコシの日本への輸入量は激減してしまうことになります。 このことは、生活者の方々が強く望み、守り育てていこうとしていたNon-G MO食品が消えていくことにほかなりません。地球人倶楽部の酪農、畜 産の生産者への影響も大変深刻で厳しいものとなり、日本でいち早くNon-G MOトウモロコシの飼料を導入した生産者たちでさえ、今、これにかわる 飼料をどのように調達していくのか、今後の対応について頭を悩ましてい ることろです。食べ物の値段は安いに越したことはない。生活者誰もが 思うことです。そして容易に豊富に作れるに越したことはない。生産者す べてが思うことです。しかし、何をどのように生産していくかこそが、これ からの生命産業すべてのカギを握ることになるでしょう。

PAGE TOP

Chikyu-jin Club

Copyrights(C)2005-2009 株式会社プロップスジャパン All rights reserved.