第20回 食について思うこと - 20周年を迎えて

2010年1月20日

地球人倶楽部は、会員の皆様のご支援と生産者の皆様のご協力を頂く中で20周年を迎えることができました。
20周年を機に「食について思うこと」を書かせていただき、こちらも20回を数えることとなりました。
20年の節目の今、地球人倶楽部が考え続け、大切にしてきたことなどの一端を会員の皆様にお伝えしたいと思い、今回は書かせていただきます。

さて、ご紹介したい一文があります。
河合隼雄さんの「神話の心理学」からの引用で、「何とも誰ともつながらない」という文章です。




「人々を不安に陥れるような事件がつぎつぎ起こっている。スーパーでの買物中に赤ちゃんが頭を包丁で刺されて殺害された事件があった。あるいは学校に入り込んできて、教師を殺傷した事件があった。
これらの事件で、まったくやりきれないのは、加害者の動機が不明確であり、このような突発的な事件に対して、どう対処すべきか簡単に答えがでてこないことである。小学生が同級生を殺害した事件もあった。
このようなことがあると、人々の不安はかき立てられる。
自分の子供は大丈夫だろうか、という相談の電話がかかってくるのだが、自分の子が「加害者」になるのではないか、という相談があんがいにあって驚いてしまった。
自分の子供が何か大変なことをしてしまうのではないか、と心配になる、というのである。
昔は「うちの子に限って」という親の自信があり、それが過信となって困ることがあったが、現在は、まったく逆にわが子を信じられない親が増えて困っているのである。
このことは別に自分の子供のことでなくとも、日本人の多くが何かはっきりとしない不安をかかえていて、それおびやかされているために、何らかの事件が起こるとそれに触発されて不安が強く意識される状態にもなっていることを示しているのではなかろうか。
マスメディアの論調もなんとなく不安をかき立てるようなもののほうが受け入れられ、安心や安全を強調するものがかえって敬遠されるような傾向がある。
日本の犯罪が増えたと言っても、アメリカと比較すると比べ物にならなぬほど少なく、都市の安全度という点では、日本はまだまだ外国に誇れるほど高い、などと言っても、あまり耳を傾けてもらえない。それは、国民一人ひとりが感じている獏とした不安定感とマッチしないからだと思われる。
このような一般的不安の根本に「関係性喪失」ということがある、と思う。
ふと気がつくと、自分はまったく何とも誰ともつながらず孤独なのである。言うならば、日本的なつながりも、欧米的なつながりもなく、まったく孤独なのである。
日本の伝統的生き方によると、人は家族、世間、地域などのなかで、なんとなくつながって生きてきた。自分を取り巻く事物とも関係があった。これは安心感という上では望ましいことだが、「個人の自由」ということを考え出すと途端に大変な「しがらみ」として感じられるものである。
欧米の思想に強い影響を受けて、日本人は-特に若者は-このような「しがらみ」を切って自由になろうとした。そして、「しがらみ」を切ってしまって、ふと気がつくと、まったくの孤独になっていた、というわけである。これは、日本人は欧米の文化とを取り入れているつもりで、個人主義の背後にあるキリスト教の存在を、まったく不問にしているために生じることである。
キリスト教文化圏において、個人主義、自由主義が生まれてくるためには長い歴史があり、個人を尊重する考えが生まれてきても、その個人は神とのつながりを失ってはいない。
個人主義は神とのつながりによって、利己主義になることを防げるし、各人は神を介してつながることになる。とは言っても、現代の欧米においては、以前ほどキリスト教の力が強くないので、日本と同様の問題をもつ人たちもいるが、ここではそのことには触れないことにする。
日本人は、いまさら昔のしがらみ状態がよかった、と言うわけにいかず、個人が大切と言いつつ、何のつながりも支えもないままに、不安をかかえて生きている、というのが現状ではないだろうか。」




長い引用になりましたが、この本は、2006年7月(大和書房)に出版されたものですが、最近の秋葉原事件なども含めて現在の日本社会の状況を的確に指摘している書物としてご紹介させていただきました。

地球人倶楽部はこの20年間、何を大切に何を求めて仕事をしてきたのかと言えば、それは関係性でした。どこの誰に野菜を作ってもらうか、どこの何を使って誰に加工してもらうか、そしてそうして出来た野菜や食品をどなたにどのようにご案内するか。時代は、人と会話をせずに買い物をし、パソコンさえあれば、相手の顔を見たり、声を聞くこともなく、生きていける道を開きました。しかし私たちは、どこの誰が、誰のために、なにをどのようにつくり、何を届け、何を感じていただくかをこの先もずっと模索していきたいと思います。
地球人倶楽部が誇りとしているものは、私たちを支えてくださる会員の皆様であり、生産者の方々です。
つい先日、ある会員様からこのようなメールをスタッフがいただきました。

思いがけずフレンドリーなメールを戴いて、嬉しかったです。地球人さんとは振り返ればながいおつきあいで、それこそ勝手に人生を共にしてきたような気になっております。
私のからだの大部分は地球人さんの手によって運ばれて来た動物植物でできております。おかげさまで健康です。毎日良い仕事をしなければ、この食物を作ったり運んだりして下さる方々に会わせる顔がないと思ってはげんでいます。(食物を無駄にせず丁寧にあつかい、おいしく食べられるようにするのも大事な仕事のひとつです。)

~中略~

毎日皆さんが激務をこなしていらっしゃるのはよくわかります。でも人の喜びを産む仕事というのはそれで十分祝福されていますね。おいしい食物は、ありがたいです。
それでは、また。有難うございました。

私たちの仕事はとてもシンプルで、日本の伝統的な生き方そのものなのかもしれません。人と共に、自然と共に、みんなで一緒につながって、助け合って支えあう。この仕事を始めて20年経った今、あらためて、物を通じて、心を通じてつながりあえる人の温かみをお届けしていきたいものと考えています。

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