レシピ からだのはなし English
食文化|Vol.42 KARADA NO HANASHI COLUMN

納豆は、稲わらにすむ菌と
蒸した大豆の出会いが育てた食べ物だった

稲わらに包まれた納豆(わらづと)
01

わらの束に、見えない住人がいた

稲わらの束を開くと、糸を引く大豆があらわれる。この食べ物のふしぎには、わらそのものが深く関わっている。

納豆をつくる納豆菌は、枯草菌の仲間だ。枯れた草などの中にすむ菌で、稲わらにもいる。明治時代より前の納豆は、煮た大豆を稲わらで包み、温かく保ってつくられていた。わらは菌の供給源であると同時に、空気が通り、温度も保ちやすい容器でもあった。納豆菌は熱に強い胞子をつくり、煮沸30分ほどでは死なないとされる。蒸した大豆とわらの出会いは、菌にとって働きやすい場だったのだろう。

では、最初の一粒は誰がつくったのか。納豆の起源は定かではなく、いくつもの説がある。ただ、どの説も「煮豆」と「わら」の出会いがきっかけだったと考える点は共通している。よく知られる伝承は、平安時代の後三年の役(1083〜1087年)のころの話だ。源義家のもとへ農民がわらで包んだ煮豆を届けたところ、数日後に糸を引いていた。食べてみるとおいしかったので、納豆としてつくるようになったと伝えられている。ただし、史実として確かめられたものではない。

02

菌に名前がついたのは、明治になってからだった

納豆をつくる菌が科学の目で調べられたのは、明治時代のことだ。1894年、農科大学(現在の東京大学農学部にあたる)の矢部規矩治が、稲わらでつくられた納豆から桿菌(棒の形をした細菌)を分離した。1905年には沢村眞らが、分離した菌で納豆をつくった結果を報告し、この菌は「Bacillus natto(バチルス・ナットー)」と呼ばれた。その後の研究で、納豆菌は分類のうえでは枯草菌と同じ種とされている。いまでは「納豆づくりに向いた枯草菌」と考えるのが一般的だ。

大正時代に入ると、北海道大学の半澤洵教授が、純粋培養によって納豆菌の種菌をつくる技術を確立した。種菌を使う近代的な納豆づくりは、1920年頃に始まったとされる。わらに頼らず、選んだ菌を加えてつくる時代の幕開けだった。

名前がつくずっと前から、菌はわらの中で静かに働いていた。
03

糸の正体と、東北・関東の食べ方

納豆の糸は、γ-ポリグルタミン酸と、レバンというフラクタンでできているとされる。γ-ポリグルタミン酸は、グルタミン酸というアミノ酸が長くつながった高分子で、納豆菌が大豆の上でつくる。レバンは果糖がつながったもので、糸の強さを保つと考えられている。現在の工場では、蒸した大豆に納豆菌をふり、約40℃で20時間ほど発酵させる。

食べ方は、土地ごとに育ってきた。茨城には、刻んだ切り干しだいこんを混ぜるそぼろ納豆や、乾かした干し納豆がある。わらに包んだわらづと納豆は、いまも土産物や贈答品として売られるが、わらを用意する人手が減り、供給が足りなくなっているという。山形や秋田には、すりつぶした納豆を味噌汁に入れる納豆汁がある。山形では、冬を越す保存食として家で納豆をつくり、糸を引かなかった納豆を汁にした地域もあった。秋田県南の内陸では、正月の雑煮の代わりに納豆汁を食べる。

納豆を、数字で辿る

1083〜1087年 後三年の役。源義家にまつわる納豆の伝承が語られる時期(言い伝え)
1894年 矢部規矩治が、稲わらでつくられた納豆から桿菌を分離
1905年 沢村眞らが分離菌による納豆づくりを報告。「Bacillus natto」と呼ばれる
1920年頃 種菌を使う近代的な納豆づくりが始まったとされる

出典:農林水産省「うちの郷土料理」「にっぽん伝統食図鑑」、醸造協会誌 第106巻第11号(2011)、化学と生物 第53巻第11号(2015)、美味技術研究会誌 No.15(2010)

EDITOR'S NOTE

納豆は、わらの束の中で、人と菌が長くつきあってきた食べ物なのだと感じました。起源には諸説ありますが、はっきりしないところも、この食べ物の面白さだと思います。次に糸を引く大豆を見かけたら、わらと菌の物語を少し思い出してみてください。

※本ページの内容は、日々の暮らしの工夫と一般的な考え方をご紹介するものであり、特定の効果効能を示すものではありません。

※体調に不安がある場合や、症状が続く場合は、医療機関にご相談ください。

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