レシピ からだのはなし English
食文化|Vol.38 KARADA NO HANASHI COLUMN

かつお節の“カビの技”は、紀州の漁師が
土佐と伊豆へ運んだと伝わる

本枯節と削り節のある台所
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奈良の都に納められた「堅魚」は、まだ節ではなかった

削り節の袋を開ければ、かつお節は台所の定番だ。けれど、あの石のように硬い姿になるまでには、長い時間と、思いがけない“カビ”の力が必要だった。

縄文時代の貝塚からは、カツオの骨が見つかっている。奈良時代になると、都へ納める税の品に「堅魚」「煮堅魚」「堅魚煎汁」が並んだ。生の身を干したもの、煮てから干したもの、その煮汁を煮詰めたものだ。養老令の注釈書『令集解』は、煮堅魚を今のかつお節の原形ともいわれる品として伝える。当時は天日干しや煮る加工をした保存食だったとされるが、書物に細かな作り方の記録はない。

「鰹節」の文字が最初に確かめられるのは、『種子島家譜』の永正10(1513)年の条だ。臥蛇島(鹿児島県)から領主へ「鰹ふし五連」が納められたと記される。1489年の料理書『四条流庖丁書』にも、削った「花鰹」が料理に加えられている。削って使う食べ方は、この頃にもう始まっていたようだ。室町時代の後期には、火で乾かした荒節の原型ができていたと推測されている。

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燻して固めた荒節に、人々はカビを重ねはじめた

かつお節づくりの要は、煮たカツオを広葉樹の薪の煙でいぶし、乾かす「焙乾」だ。こうして仕上がる黒褐色の節が荒節である。煙には、初期の傷みを防ぐ役目もあるとされる。燻して乾かす技の来歴は、南の海から琉球を経て伝わったという説や、日本で自然に生まれたという見方があり、定まっていない。紀州印南の角屋甚太郎が1674年に燻乾法を開発したという話も、地元で語り継がれている。

荒節にカビを付ける工夫は、1600年代の半ばに土佐で考案されたとされる。同じ頃、紀州印南の漁民が足摺の浦々に拠点を置き、カツオ漁と加工を営んでいた。江戸時代の前期から中期にかけて、土佐では荒節の表面を削って「裸節」にし、カビ付けを1回してから念入りに日に干す「改良土佐節」が生まれたという。表面を削るのは、燻した煙の成分を落とし、カビを育てやすくするためだ。

削って、カビを付けて、干す。そのくり返しが、節の姿を変えていった。
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伊豆で整った工程が、いまの本枯節につながった

江戸時代の後期、印南出身とされる与一が、南房総の千倉と西伊豆の安良里に土佐の製法を伝えた。それまでの伊豆節は煮る工程がなく、カビ付けを何度も重ねていた。そこへ「煮る」と「表面を削る」が加わり、煮熟、焙乾、削り、複数回のカビ付けと日干しをくり返す「改良伊豆節」が生まれる。今の本枯節と同じ工程である。

いまの作り方は、カビ付け、天日干し、カビ払いを4回ほどくり返し、約6か月をかける。カビはアスペルギルス属の仲間で、脂肪を分解し、香りや色合いを整えるとされる。カビ付けの回数による呼び分けは資料で差があり、2回を枯節、4回以上を本枯節とする例がある。枕崎へは1707年に紀州の人が製法を伝えたとされ、いまは焼津・枕崎・山川の三地区で全国生産量の9割以上を占める。

本枯節を、数字で辿る

1513年 『種子島家譜』に「鰹ふし」が登場。文字の初見とされる
1674年 紀州の漁師が燻乾法を開発したと地元に伝わる年
約6か月 カビ付け・日干し・カビ払いを4回ほどくり返す期間
約15% 生のカツオの重さに対する、本枯節の仕上がりの一例

出典:農林水産省「にっぽん伝統食図鑑(節類)」、国立国会図書館「本の万華鏡 第17回」、和歌山県広報誌『nagomi』、土佐清水市史編さん便り20号、神戸大学大学院農学研究科の研究発表資料、公益財団法人キッコーマン国際食文化研究センター『Food Culture』No.36

EDITOR'S NOTE

削り節ひとつまみの向こうに、浜の漁師と、カビと、江戸の人々の工夫が重なっていると知ると、見え方が少し変わります。年代や回数の説明は資料ごとに差があり、今も研究が続く分野のようです。

※本ページの内容は、日々の暮らしの工夫と一般的な考え方をご紹介するものであり、特定の効果効能を示すものではありません。

※体調に不安がある場合や、症状が続く場合は、医療機関にご相談ください。

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