衣替えは、平安の宮中から届いた
「けじめ」の作法だった
「更衣」という、宮中の行事
クローゼットの中身を入れ替える季節がやってきました。何気なく続けているこの習慣、実は平安時代の宮中行事「更衣(こうい)」に起源を持つと言われています。中国の風習にならい、旧暦4月1日と10月1日に夏冬の装束を替えたのが始まりとされ、後醍醐天皇の著書にもその記録が残っています。
今のような形になったのは明治時代のこと。1873年の新暦採用にあわせて、6月1日から9月30日を夏服、10月1日から翌5月31日を冬服とする規定が定められました。まず官吏や軍人、警察官の制服に適用され、やがて学生服を経て、民間の暮らしにも定着していったのです。
02虫が嫌う香り、樟脳の歴史
衣替えとともに欠かせないのが、防虫の知恵です。クスノキから採れる結晶「樟脳」は、江戸時代から防虫剤として使われてきました。鎖国期の出島貿易では、薩摩藩産の樟脳が金・銀に次ぐ輸出品だったと伝わっています。
防虫剤の成分は時代とともに移り変わってきました。樟脳から始まり、ナフタリン、パラジクロルベンゼンへと変化し、1980年頃からは無臭のピレスロイド系が主流になっています。現在、家庭用防虫剤のおよそ8割がこのピレスロイド系だとされています。
虫食いの真犯人は、
汚れであることが多い。
「混ぜてはいけない」の理由
防虫剤の注意書きに「他の防虫剤と混ぜないでください」とあるのを見たことがある方も多いと思います。樟脳・ナフタリン・パラジクロルベンゼンなど、異なる有臭性の防虫剤を一緒に使うと、化学反応によって薬剤が溶け出し、衣類にシミや変色が生じることがあるためです。無臭のピレスロイド系は他の成分と反応しにくいため、比較的併用しやすいとされています。
そもそも、衣類を食べる虫の正体は、イガやコイガといったカツオブシムシ科の蛾です。繊維を食害するのは幼虫の時期だけで、動物性タンパク質を消化できるため、ウールや絹、羽毛といった動物性繊維を好みます。皮脂汚れが残っていれば、綿や化学繊維であっても食害の対象になり得ます。つまり、しまう前にきちんと洗濯しておくことこそが、いちばんの防虫策だとも言えるのです。成虫は白い色に誘引されやすく、春から初夏にかけてが産卵の時期にあたります。
衣替えという習慣の、来歴
出典:衣替えの歴史=Wikipedia「衣替え」、国立国会図書館レファレンス協同データベース。防虫剤の成分変遷=業界情報サイト等の解説資料。カツオブシムシの生態=KINCHO「ウルトラ害虫大百科」。
木や香りに頼る、もう一つの知恵
化学的な防虫剤に頼らない知恵も、昔から伝わっています。ヒノキの香り成分には防虫効果があるとされ、桐たんすもこの性質を活かした収納家具です。西洋では、ラベンダーなどハーブの香りを虫が苦手とするとされ、サシェに詰めて衣類の間に置くという知恵が親しまれてきました。効果の強さは化学的な防虫剤ほどではないとされますが、香りそのものを楽しみながら虫を遠ざけるという、暮らしに寄り添った工夫と言えそうです。
台所の香り(Vol.11・12)から始まったこの連載も、今回はクローゼットの中まで広がりました。季節の変わり目の小さな手間が、次の季節を心地よく迎える準備になります。
※本ページの内容は、日々の暮らしの工夫と一般的な考え方をご紹介するものであり、特定の効果効能を示すものではありません。
※防虫剤は製品ごとの注意書き・使用方法を必ずご確認ください。異なる種類の防虫剤を併用する際は特にご注意ください。