乾かすほど、濃くなる
――乾物という、発酵しない保存の知恵
干すという、いちばん古い保存法
これまでこの連載では、発酵という時間をかけた保存の知恵をご紹介してきました。今回取り上げる「乾物」は、菌の力を借りずに、太陽と風の力だけで食material を保存するという、もう一つの知恵です。
日本での乾燥保存の歴史は古く、貝塚の跡からは魚介を干した痕跡が見つかっています。奈良時代の正倉院文書には献上品として、平安時代には『源氏物語』にも「からもの」の名で記録が残ります。江戸時代になると各藩が名産品として乾物づくりを奨励し、日本橋小網町には乾物を扱う問屋が軒を連ねたと伝わっています。
02乾かすと、濃くなる
乾物の面白さは、ただ日持ちが良くなるだけではないところにあります。水分が抜けることで、栄養素の密度そのものが上がるのです。切り干し大根は、生の大根と比べてカルシウムがおよそ20倍、食物繊維も2倍以上に増えるとされています(同じ重さで比べた場合)。
干し椎茸のうまみ成分「グアニル酸」も、生の状態ではほとんど存在せず、乾燥の過程で細胞が壊れ、酵素の働きによって初めて生まれます。天日に干すことで、うまみそのものが「つくられていく」というわけです。
偶然が生んだ、二つの乾物
凍らせて、忘れて、
生まれたものがある。
高野豆腐は、鎌倉時代、高野山の僧が豆腐を厳冬期の寒気にさらしてしまい、一夜のうちに凍らせてしまったのが始まりと伝わっています。京都・伏見の寒天も、旅宿の主人がところてんの残りを戸外に捨てたところ、寒夜の凍結と日中の融解を繰り返して干物状になった、という逸話が広く語られています(起源の年代には諸説あり、伝承として伝わるものです)。どちらも、失敗や偶然から生まれた保存食が、長い時間をかけて暮らしに根づいていったという点で共通しています。
干すことで、増えるもの
出典:切り干し大根の栄養成分=文部科学省「日本食品標準成分表」。干し椎茸のグアニル酸・ビタミンD=各種食品科学解説資料。数値は品種・乾燥方法により幅があります。
乾物という、無駄のなさ
乾物の賞味期限の多くは1〜2年と長く、必要な分だけ戻して使い、残りは保存しておけます。急速に注目されているフードロス削減の観点からも、乾物という知恵は、実はとても理にかなった選択だと言えそうです。
菌の力を借りる発酵と、太陽と風の力を借りる乾物。どちらも「時間を味方につける」という点で、日本の食卓に受け継がれてきた知恵です。次回は、この連載で冷えと巡りをテーマにお届けする予定です。
※本ページの内容は一般的な食生活の情報であり、疾病の診断・治療・予防を目的としたものではありません。持病や食事制限のある方は、かかりつけ医・管理栄養士にご相談ください。
※歴史上の逸話には諸説あり、本ページでは伝承として紹介しています。