第21回 有機農業について「<生態系について3> 風化」

2009年11月05日

今週は生産者との打合せの為、東北をグルリと回ってきましたが、最後の訪問地である安比高原牧場に着いた頃には今年最初の雪模様となり、山もゲレン デも、そして牧場も一面真っ白な雪景色となりました。牧場を見学しているときの気温は-3度。うかつにも薄着でいったものですから、それはそれはとんでも ない寒さで命かながらの出張となってしまいました。
安比高原はきたみどり北緯40度、中国の北京などと同じ緯度であるとの由、なるほどと納得しましたが、東京に帰ってみれば電車の中は汗ばむほどで、これが 本当に同じ日本なのか、としばし呆然でありました。余談はさておき本題にもどりますが、第19回の「ハヤプサ」、第20回の「文明」という2回のなかで生 態系について皆様とともに考えて参りましたが、今21回は、生態系の締めくくりとしてお話をすすめて参りたいと思います。

  シリーズ第3回「有機と化学の分岐点」の中でご紹介した、化学農業のパイオニアといわれるリーピッヒが植物を焼いて発見した成分は、窒素、リン酸、カリで ありましたが、このことは自然の中にこれらの無機成分が存在していることの証明に他なりません。作物や家畜頼が必要とする無機成分、鱗酸やカリ、また、微 量元素は自然界のどこから供給されているのでしょうか。
それは、巨大な鉱物の貯蔵所である一次的火成岩や二次的堆積岩という、いわゆる岩石の風化と分解により供給されているのです。
川の流域の周辺部で露出した岩石の表面が、緩慢な速度で崩壊してゆくことは、風化分解のひとつの形態で、その分解過程の各段階で生成される微小な鉱物の小 粒子が、風雨雪永により低地へ低地へとうんぎ運搬され、最後には何メートルかの厚さに堆積して豊かな土地が形成されてゆくのです。
  メソポタミア文明も、このようにティグリス・ユーフラテスの上流における「風化」と「分解」という自然のプロセスで生成された鉱物資源が運ばれることによって、、新たな土壌が形成され繁栄したのです。
  このように風化によって岩石から作られた鉱物の小粒子は、それ自体が岩石ですから、風が吹けば何処にでも飛んでいってしまいます。しかし自然は、このような現象が進行しないように、実に見事な制御装置を準備しているのです。

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 自然が行う制御のもっとも重要なもののひとつは、土壌に「団粒構造」をもたせることです。
岩石から作られた鉱物の小粒子は、主として腐食を食糧とする土壌のバクテリアの遺体から供給されるニカワのような有機物質によって結合されるのです。鉱物 の小粒子が、互いに密着するためには、微量の接着剤のようなものが存在しなければなりませんが、その役割を果たしているのが微生物なのです。
  土壌は、レンガ造りの建物と同じように、セメントのような接着剤が存在しなければ生きていくことはできないのです。腐食の役割がいかに基本的に重要である かが、このことからもよく解ります。腐食は、細菌の生命を支え、土壌粒子をつなぎ合わせているのです。
さらに土壌の活性を高める基本を担っているのです。

 このような自然の営みが、人間の働きかけによって阻害されるようなことになると、接着物(微生物)の供給が滞ることになり、土壌団粒構造はたちまち崩壊状態となり、その際、鉱物の小粒子は結合状態を解き放たれるという、土壌の荒廃の第一歩が始まるわけです。
  土壌粒子は水に流され、海に運ばれ、あるいは粉塵となって、風に飛ばされるいずれかの運命をたどるのです。 
土壌侵食としてよく知られる、このような現象、人間によってもたらされた病気、すなわち酷使され、役に立たなくなった瀕死の土壌は、すぐさま自然の作用によって運びさられ、大洋に押しながされてしまうのです。
  リービッヒの発見した窒素、燐酸、カリという成分は、化学肥料として土壌に大量にまかれました。
それは、作物の栄養源として多大な効果があり、多くの収穫をもたらしましたが、そのような対応の結果として「無数に存在する土中生物間の共存の原理」に支えられた土壌の生命力を消耗させてしまったのです。

 自然が作り上げてきた見事な制御装置、「土壌の団粒構造」。それはまさに地球の生態系を支える最も重妻な要素であり、これを守らないと生態系は根底から崩れてしまうのです。
  有機農業は、生態系を守る農業であるといわれますが、このような自然の制御装置、団粒構造を土壌に作り上げてゆくことに本質があるのです。

 土壌は岩石の風化作用と微生物の腐食の働きにより、長い年月をかけて作られてゆきます。
この土壌の一番上の層を表土といい、黒土とも呼ばれます。この表土が1センチできるのにおおよそ100年から400年かかると言われています。日本の場合 は、自然の状態で表土の厚さは30センチから50センチ。農地で平均18センチと言われています。従って、現在の日本の表土ができるまで、早くて3千年、 長くて2万年の歳月がかかっているのです。
このようにして作られた豊かで肥沃な土壌の中には、あらゆる生物があたかもひとつの細胞組織のようにうごめき合っています。土壌そのものが生命体といっても差し支えないのです。
  植物は、その土壌の中の生命体と共生関係にあり、その生命活動が作り出す物質があってはじめて生育することができるのです。
  こうした生きた土壌は、地球の表面の限られた地域を皮一枚でかろうじて覆っているにすぎません。そして、その蓄積には想像もつかないほどの莫大な時間を必要としたのです。  生態系の全てのはじまりは、この生きている土壌にあるのです。

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 私達の住む地球には、匂いがあります。

水の匂い、 風の匂い、 木の匂い、 花の匂い、 草の匂い、
そして  土の匂い。

 それらの匂いは、地球が生きている証です。
渾然一体となって香り立つ地球の匂いを、私たちは守り続けなければなりません。
土の匂いがこの地球上から消えてしまったとき、その時には、私たちひとこう人間も風化してしまっているのかもしれないのですから...。

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