第12回 有機農業について「ほうれん草の一日」

2009年11月05日

 私事で恐縮ですが、私の小さな家に住んでいるネコのココは、雑種ではありますが大型タイプで、その上大変な肥満体、というわけでネコなのかタヌキ なのか見分けがつきにくく、間違われたり致します。原因は食べ過ぎによる栄養過剰につきるわけですが、このようにネコに限らず私達人間も含めて、豊かな祉 会では、カロリーをとりすぎてしまう傾向にあるようです。

 農産物の世界でも同様で、化学肥料の多投による育成は、農産物そのものを栄養過剰状態にさせ、肥満体という言葉は適切ではありませんが、かなりバランスの崩れた状態を作り出してしまうことが多々有ります。

 みなさまが日頃よく食していらっしゃるホウレン草の例でお話を申し上げれば、栄養過多の場合の特長の一つに、葉っぱの部分が黒ずんでいるということがあります。
冬場のホウレン草と夏場のものとは、多少色の違いは出て参りますが、冬場の方が少し深めのグリーンとなり、夏場は明るいグリーンというのが健康に育ってい るホウレン草というもので、一般によくみられる緑が濃すぎて黒ずんだ色のものは、あまり健康的なものとは言えません。
これは、窒素過多の典型的な症状です。

  2つ目の特長としましては、葉っぱの部分が全体の姿形の中において、大きいということがあります。たまにスーパーなどで見ておりますと、ホウレン草を選ぶのに葉っぱの大きいほうがお買い得とばかりに選んでおられる方を目に致しますが、これは間違い。

また、3つ目には、茎の部分がやたらに長い、背の高いほうれん草も栄養過剰の症状のひとつです。さらに申し上げれば、食味に苦みのあるもの。そしてこのようなホウレン草は、体が弱い状態ですから生命力も弱く、日持ちしないというような特長がでてきます。

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 化学肥料多投型のホウレン草には必ずこのような現象がでてくるものですが、有機栽培についても栄養過剰の状態になれば、同じような結果が生じることも付け加えておかなければ、不公平ということになります。
 地球人倶楽部のホウレン草も、たまに苦みがあったとご指摘をいただくこともあるわけで、有機肥料過剰に与えている状態があったことの証明に他なりません。
  以前にも申し上げたことがあるかと思いますが、有機栽培の生産者はどこの誰それといくら文字に書いてみたところで、農産物は率直なもので、自分がどのような育ち方をしてきたかの証拠をしっかりと自分の体にもっているのです。

  朝早く東の空に太陽が昇りはじめる頃、ホウレン草畑に入ってみると、ホウレン草の緑葉が空に向かって立っている姿を見ることができます。健康に育っている ホウレン草だけにみられる現象ですが、これはホウレン草が一生懸命働いている姿なのです。ホウレン草に限らず植物は、昼間空気に含まれる二酸化炭素(以下 炭酸ガス)を吸収します。炭酸ガスを吸収する気孔は緑葉の裏についているので、朝寝坊して緑葉を横にしていると葉と葉が重なり合って畑全体が密閉された状 態となり、葉の裏側への空気の流れが悪くなってしまいます。空気の流れをよくして、炭酸ガスをたくさん吸収するために、ホウレン草は朝、葉を立てるので す。

 不建康なホウレン草の朝は、葉を横にしたままの状態です、むしろ下り放しといったほうが良いくらいです。なぜ、朝寝坊しているのでしょうか...。実は寝坊しているからではなく、栄養過剰で葉が大きく重くなっているため持ち上がらないのです。
  葉と葉との重なり具合は、先にお話しした空気の流れを悪くするとともに、ホウレン草の足元というか根元の土壌に太陽の光を遮断することにもなり、ジメジメ とした土壌過湿状態の環境を生み出し、病害虫発生のもとをつくってしまいます。そして、午後、中天に太陽の位置する頃、健康なホウレン草は葉を横にしま す。気温の上昇に対して根元の湿度を保つための働きです。

  植物にとって、炭酸ガスの吸収という大切な仕事とともに、もう1つ土壌の中に浸みこんでいる活性(有機)あるいは、不活性(無機)の物質を吸収して、それ らを植物体内で同化して食糧を作るという大切な仕事もあります。水に溶けた様々な肥料を吸収して栄葦素とするわけですから、水分を必要以上に蒸発させるこ とは困るので、葉を横にして土壌の温度の上昇を押さえているのです。
  水分の吸収の仕方そのものにも2つのホウレン草には大きな違いがあります。このことが健康・不健康の大きな分かれ道ともいえるものです。

  肥料過剰になっていない畑のホウレン草は、自分に必要な栄養素を自分で土壌の中から探さねばなりません。その為、根っこの部分に根毛をしっかりとはりめぐ らせ、広い範囲から必要な成分を吸収するわけです。一方、肥料過多の畑のホウレン草は、根毛を発達させて苦労しなくても、常に根もとにたくさんの肥料があ るので根っこの部分の水を吸収するだけで充分というわけです。そういう生活スタイルになると、少しでも根っこの水分が不足すると、すぐに元気をなくし、成 長が止まり、下手をすると枯れてしまいます。
そうなっては大変と、根っこの部分には常に水を補給することになります。大量の水は土壌の中に肥料もとかすことになり、溶けた肥料をホウレン草は必要以上 に吸収してしまいます。また、水に流された肥料もありますのでさらに肥料を投入するという悪い循環に入り、その過剰栄養分は先に話をした葉っぱを大きくし たり、茎を長くしたりという様々な現象を生み出すのです。

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  太陽が西に傾き、日が翳り始める頃、再びホウレン草の緑葉が立ってることに気づきます。1日中働いて作り出した養分を根っこや新しい葉へ送り出したことの証明です。
健康なホウレン草の一日は、このように緑葉を立てたり横にしたりを繰り返しながら、静かに終わるのです。一日中寝ているホウレン草、一日中葉働いているホウレン草。ホウレン草にもいろいろあることを皆様にもご理解いただけたことと思います。

  以上の話の本質は、実はホウレン草の緑葉の働きにあるのではなく、土壌の中にあります。健康な土壌がすべての根本にあります。次回はそのあたりのお話しを して参りたいと思っています。千葉のホウレン草の旬はおわりを告げ、6月半ぼからは芦川村の冷涼な高原ものがはじまります。その折は、ぜひホウレン草の 葉っぱをしみじみ眺めて、判定してみてください。

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