第10回 有機農業について「環境と農業」

2009年11月05日

1988年夏、アメリカ中西部の穀倉地帯を襲った異常高温は、大干ばつを併発し、この年アメリカの穀物収穫量は自国の年間消費量2億600万トンにも満たない1億9000万トンにまで落ち込みました。
それは最強の農業大国、"世界のパンかご'を自認するアメリカ人にとって、いまだかつて経験したことのないショッキングな出来事でした。
干ばつの原因をめぐり、ワシントンの議会で幾度となく開かれていた科学者達の公聴会は、 

1. 少なくとも最近の30年間は地球規模の構造的な温暖化が進行している。
2. 構造的な温暖化を引き起こしている原因は、大気中に含まれた「温暖効果ガス」の濃度が増大したことにある。従ってこのような温暖化(気温の上昇)は、大気中の「温室効果ガス」が減少しない限りは際限なく進行する不可逆的現象である。
3. 「温室効果ガス」の濃度は、既に著しく高くなっているため、今後は1988年に生じたような異常気象が発生する危険性はますます増大する。

という以上のような主旨の証言を行ないました。                      

 証言の内容は詳細かつ膨大なので、紙面の関係上すべてご紹介することはできませんが、この公聴会での科学者たちの描いたシナリオにより、地球規模の環境破壊のもたらす影響が、にわかにリアリティーをともなって私達にイメージされだしたのです。


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  地球の環境が破壊されている、という内容の様々なニュースや情報は、過去に色々と私たちも聞かされて参りました。しかし、この1988年のアメリカ中西部 の大干ばつによる穀物凶作は、炭酸ガスの厚着をまとって熱くなりつつある地球が、農業へ被害を及ぼした「最初の兆し」であったのです。

 世界的に著名なアメリカの国立大気センターでは、西暦2040年には大気中の炭酸ガス濃度が倍増すると見ており、現在の平均気温より3℃高くなると予測したうえで、「地球温暖化」が世界各地に引き起こす具体的な気侯変動に関する研究を行っています。
平均気温が現在よりも3℃高かったと推定される約6000万年前における地球上の地域別気候分布分析も併せて研究しているようですが、発表された1つの シュミレーションでは、アメリカ中西部の穀倉地帯の主要穀物生産量は、35%程度滅少するとしています。このような地球の環境悪化にともなう明日の世界の 農業環境を考えますと、もはや一国として安全の地がないことがよくわかります。「温暖化」がアメリカに限らず、日本の農業にとっても生産基盤の危機である ことは間違いないからです。


  さて、炭酸ガスの倍増、その時日本への影響はどのようなものでしょうか。農水省の農業環境技術研究所の予測では、北海道・東北で 3.5℃~4.0℃、中部以降から西日本では2.5℃~3.5℃、南西諸島で3℃、年間の平均気担が上昇する。具体的に申し上げれば、現在の南九州の気温 帯が中部から関東地方にまで北上するというわけです。西および南日本の太平洋岸では、パパイアからバナナ、マンゴーまでほとんど亜熱帯作物を作ることが出 来るようになるとも言われ、何か南国ムードもでてきているわけですが、喜んでばかりもいられないのです。

 温暖化が日本農業に及ぼす悪影響については様々指摘されていますが、ポイントだけを申し上げれば、日本の素晴らしい四季がなくなり、熱帯型となるわけですから今までの農業技術は全く使えなくなると思われます。
気温の上昇により雨の降り方も熱帯スコール型となり、土壌の流出量の増大をもたらし、また、水分の蒸発量も3~4%増えてくる、ということで雨が降らない期間がわずかに続くだけで土壌が乾燥して干ばつになる等々、様々な悪影響が予測されます。
先にお話をしたワシントンの議会での公聴会で、地球規模の温暖化問題に関する世界的権威であるJ・ハンセン博士(NASAの宇宙研究所所長)は、「このよ うな温室効果ガスの濃度増大を引き起こしている主因は、化石燃料の多用に依存した工業活動にある。しかし他にも窒素等の化学肥料を多投したり、熱帯雨林の 広域皆伐などによって耕地の拡大を図るような農業の反エコロジー的対応も、温室効果ガスの増大に対して無視しえない役割を果たしている」と述べています。


  1988年の公聴会以降、アメリカ政府は農業政策の大転換を発表し、官民両サイドから環境保全型農業の重視に向けた農政の転換を推進しているようです。そ の中身は、有機農業への転換であり、地球の環境を守りながら食糧供給能力の持続性を高め、さらに食物の安全性に対しても有機農産物に対する国定基準を策定し、急速にその方向性を変化させているのです。

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EC、 ヨーロッパ諸国でも、有機農業への転換はアメリカのそれよりも早く実施されており、国をあげて環境保全型農業への真剣な取り組みが行われているのが現状です。先進諸国といわれる中で、わが日本だけが全く何もしておりません。いずれまた、世界的な国際会議で批判され、その後渋々何かを始 めるのでしょうが...。それは日本人として恥ずかしく残念なことです。地球の環境問題は、イコ-ル農業問題であり、それは世界の食糧問題と直結しているので す。
今、世界は有機農業への転換を推進しています。それが地球の環境を守り、人々の健康を守るということに気づいたからです。 

  今年の夏は、どの様な夏になるのでしょうか・‥。
  酷暑なのか冷夏なのか。私たちが小さい頃知っていた夏は、いったいどこにいってしまったのでしょうか。

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