第1回 有機農業について「4つの環」

2009年11月05日

昨今、「有機栽培・無農薬」あるいは「低農薬栽培」の農産物という文字、言葉をいろいろなところで聞き、また見かけるようになりましたが、有機農業 の本質、有機栽培とはそもそもどのようなものかについては余り知られていないし、論じられてもおりません。 日本の大学の農学部でも、長い間、それは、時 代遅れ以外の何者でもなく、実践しつづけてきた人々はただの変人でしかありませんでした。それは、有機農業者に多くの関心をよせてくださっている生活者の 方々がたくさんいる現在においてもそれほど変わりはありません。そのような状態なので、ごく一部の方を除いて、生活者の方々が有機農業とは何かを知らない のは当たり前のことと言えます。
では、少しずつ地球人倶楽部の考える有機農業についてお話をして参りましょう。

 「有機質の(堆肥)肥料を畑にまけば、それ有機農産物である」、というような商品も一部流通しているようですが、有機農業というものはそのような単純な農業技術論ではありません。
  私たち人間と植物はとても似ていて、健康であれば病気にかかりにくく、体が弱ければいろいろな病気にかかる可能性が高まります。
例えば皆様、野菜の緑葉に油虫が一杯ついている状態をイメージしてください。では、なぜこの緑葉についているのでしょうか。答えは、大好きなエサを食べて いるのです。それは緑の葉っぱ自体ではなく、葉に含まれる余剰栄養分および老廃物を食べているのです。これは、この植物にとっては体のバランスを崩して、 余分な分泌物が多く排出されている状態で、人間でいうなら、さしずめ病気にかかった状態といえます。この時、有機農業では、なぜ油虫君が一杯くるように なったか「原因追及型」の思考をとります。一方、近代農業の主流をしめる化学農業では、まず虫を退治する、ないし虫がつく前に薬を散布しておくという「対 症療法的思考」が基本にすえられています。

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これは一概にどちらがよくてどちらが悪いかを論じようとしているのではなく、皆様にはまず、この両者の思考の違いについてご理解いただきたいと思っています。

  有機農業の基本は、あくまでも病気にかからない、病気に負けない生命カのある作物の栽培することで、そのためにどうすればよいのかを考え、実践してゆく農 業といえます。実に巧妙につくられている自然界の生態系をできるだけ壊さないよう、逆らわないように使用してゆく農業が有機農業なのです。

 人は、或る時から「自然界の法則」を無視した農業を初めてしまいました。このことが私達の食べる野菜を含むあらゆる植物の健康と病気にかかわる多くの問題の起因となったと考えられています。

  私の愛読書であるアルバート ハワード卿(1873~1947)の「ハワードの有機農業」という(1945年英国で刊行)今から50年前に出された本の中 に、ハワードが考える自然の法則が書かれています。少し難しい言い回しですが、一部平易な言い回しで引用させていただきます。


  1. すべての生物は、本来、健康である。
  2. この法則は、土壌・植物・動物・人間にあてはまる。これらの4つの健康は、1つの鎖の環(わ)で結ばれている。
  3. この鎖の最初の部分の環(すなわち土壌)の弱点または欠陥は、環を次々と伝わって最後の環、すなわち人間にまで到達する。
  4. 近代農業の破滅の原因である広範に広がる植物や動物の害虫や病気は、この鎖の第2環(植物)および第3の環(動物)の健康の欠陥を示す証拠である。
  5. 近代文明国の人間(第4環)の健康の低下は、第2、第3の環における欠陥の結果である。
  6. あとの3つの環の一般的な欠陥は、第1の環である土壌の欠陥に原因があり、土壌の栄養不良状態がすべての根源である。健康な農業を維持できないことは、我々が衛生や住居の改善、医学上の発見しえたすべてを台無しにしてしまうものである。
  7. ひとたびこの問題に関心を向けるならば、我々の歩んできた道を引き返すことは、それほど困難なことではない。我々は自然の指示に心をとどめ、自然の厳然たる要求に従わなければならない。
    その要求とは、
    (a)すべての廃棄物を土地に還元する。
    (b)動物と植物を同居させる。
    (c)植物栄養に対する適切な保全義務を推持する。
      すなわち、菌根の共生を妨げてはならないということである。

 このように自然の法則にすすんで従うならば、農業の繁栄は続き、我々自身、また子孫の健康の増進という、測り知れない資産を受け取ることができよう。


  長い引用になりました。ハワード卿は、すべての生物の健康は、土壌が健康であるかに起因するということを述べています。健康な一握りの土壌の中には、何億 という微生物が生活していることをご存ですか?この健康な土壌があってこそ、虫や病気をはねのけるたくましい植物が育ち、その植物(穀物)を食べることで 動物の健康が維持されるということです。
 人間は、その一番最後に位置し、健康な植物と動物から糧を受けるのです。難しいようでとてもシンプルな連鎖の関係です。

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 先にお話しをしたように、今のわが国では有機農業に携わることは、まだまだ普通の人間とは見られません。しかしながら、諦めることなく、半歩でも一歩で前へ足を進めなければなりません。
 私達人間が獲得した近代的な文明社会は、多くの楽しい豊かな生活を提供してくれました。
 そして、私達が失ったものは地球の環境破壊にともなう4つの環の弱体化ではなかったでしょうか...。それでは今回は、この辺りでペンを置きます。

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