第4回 有機農業について「森と土と水」

2009年11月05日

1984年、今から11年前になりますが、エチオピアの飢饉による難民の姿は、皆様もご記憶のことと思います。テレビを通して見る荒涼とした風景か らは、100年(1世紀)前には、エチオピアの国土の40%が豊かな樹木に覆われていたとはとても想像できないことです。現在、その数値は3%までに落ちたと言われており、私達が見たのは、まさにその風景なのです。
  エチオピアの高原の荒廃は、森林の破壊により始まったといわれています。
シリーズ第3回目で、森林がなくなれば雨もなくなるとお話しいたしましたが、森林の土壌は、雨期に吸収した水を貯え、その水により雨のない時期にも貯えた 水を樹木に供給しつづけます。樹木を切り払えばこのメカニズムは働かなくなり、雨は土壌の深いところまでしみこむことなく、表面を流れてすぐに川に注ぎこ んでしまいます。その結果、土壌はだんだんと乾燥化し、肥沃度も低下し、また風で飛ばされ、雨によって川に流されていくのです。これが土壌浸食の始まりで す。
  エチオピアの土壌の乾燥化にはさまざまな原因がありますが、1つの側面としては農民が焚き木にするために材木を伐採し続けたことにあると言われています。 さらに樹木がなくなると、大地に残された動物のフンや作物の切り株などを燃料として燃やすことになります。フンや作物を刈り取った後の残滓は最高の有機肥 料であり、これらが土壌に返されて作物の養分になることは皆様もご承知のことです。その肥料が土壌には還元されずに、燃料になってしまったことで、土壌の 肥沃度は低下し、劣化し、どんどんとボロボロの土になり、やがては風雨によって飛散し、流出していったのです。まず、最も細かい土壌の粒子がなくなり、あ とには荒い粒子の土が薄く残りますが、こういう土壌は水をつかむことができません。
  エチオピアの高原は、このように長い期間、土壌侵食に痛めつけられて現在の姿になったといわれています。

  さて、ブラジルのコーヒーが不作で、コーヒーの価格が値上げされるというニュースが最近流れました。これは、ブラジル南部での冬期の霜の被害によるものです。こうした霜の被害は、過去に何度もあったことで特別なことではありませんが、今後このような霜による害がさらに多くなり、ブラジル南部の豊かな農業地帯の作物、コーヒー、砂糖、オレンジ、バナナなどが大きな打撃を受けるのではないかと言われています。では何が原因なのか。それには、大規模なアマゾンの 開発ラッシュ、つまり大規模な森林の伐採が大きな影響を与えているのではないかという考え方があります。アマゾンの森林は、水をつくる巨大な装置といえま す。

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  この大森林では、水が土壌、大気、そして樹木の中に貯えられています。アマゾン川流域には、毎年12000立方キロの雨が降ります。その内、アマゾンの広 大な河川に流れ込むのはその半分で、残り半分は森林にいったん貯えられ、そして再び大気中に放出されるという循環が繰り返されています。 大気中に放出された水は雲となり、再び雨となって地上に降り注ぎます。このことを蒸発散と言いますが、樹木がなくなれば蒸発散はおこらず、降雨量そのもの も減ってきます。森林から大気への水の再循環が少なくなるからです。ブラジルアマゾン研究所のエネアス・サラーティ氏は、アマゾン雨林滅亡の日のシナリオ を「サイエンス」に発表しています。


  森林の破壊が広範囲に及ぶと、連鎖反応がはじまる。地表に流れる水が急激に増え、川や海にどんどん流れ込み、土壌への水の再補給や蒸発と降雨による水の再 循環が不可能になる。土壌から大気中に蒸発散される値は全体として低下しているのに、なお、充分に水をつかんでいる時と同じ位高い数値で大気に水分を戻そ うとしてゆく。それによって土壌に残る水分はさらに減り、最終的には、大気に再循環される水は減少し、大気中の水分が減るから、その地の上空に浮かぶ雲の量も減り、雲ができないから降雨量も減少し、結局システム全体をめぐる水の量が減って、ついには太陽からの放射が増加し、ついにアマゾンの熱帯雨林は滅亡 する。


 現在のアマゾンはすでにお話ししたように、森林の伐採により、降雨量が減り、乾期が長引き、冬がいっそう寒くなり、霜の被害が発生しているという段階にまできていると言われています...。

エチオピア、アマゾンと例をあげて、森林と農業との関係をお話しして参りましたが、最後に日本について話します。               、
  日本は、激しい牽雨に非常に侵食されやすい土壌で、しかも急斜面の地形が多く土壌の保持が困難な国土といえます。日本の農業の主たるものは、昔から水田に よる稲作農業であったので、もしそれらの水田地帯が、山腹からの土砂の流入により厚い土壌の層で覆われてしまえば、水田は水を保持できずに、日本人は米が 食べられなくなることに気づいていました。
古い昔から、この土壌侵食についての危険性を日本人は理解しており、その防止のための技術が発達してきました。洪水を制御し、しかも狭い谷間での米の生産 を保持するもっとも経済的で効果な方法として、流域の山岳部分の森林の維持に努めてきたのです。国有林とか保安林がこれにあたり、特に保安という言葉は、 土壌の侵食に対してのもので、土壌侵食を制御する役割を担っていたのです。


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日本の森林は、土壌が膨大な雨量を吸収保持し、河川に緩慢に水を供給する手助けし続けてきたので、今なお日本の水田地帯の存在を確保することができたのでしょう。

 エチオピア、アマゾン、そして日本の例をご紹介してまいりましたが、森林がいかに私たち人間を含む地球の生命にとっての大きな存在であるか、よくお解りいただけものと思います。
  そしてもし、あなたが森の中をゆっくりと歩いたなら、ほどよい水分を含んだここちよい空気と風を、その肌に感じ、何かを感じることができるでしょう...。

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