第14回 食について思うこと

2009年11月23日

地球人倶楽部も会員の皆様や生産者の皆様に支えられ、今年で20年を迎 えさせていただいております。
有機農業というものに関わって20年とも言い換えられるのですが、その間、生産者の方々に教えられ、気付かされたことはたくさんあります。
そのような話を「食について思うこと」の中で語っていきたいと思い、書き始めて今回で14回目となりました。
日本の有機農業の草分けでもある新潟の鶴巻義夫さんとは、地球人倶楽部 設立当初からのお付き合いで、今もトマトジュースやお餅で皆様にはよくご存知の方ですが、秋のお米の収穫時に夕暮れの田圃で二人で話したことが今も思い出されます。

鶴巻さんの所の稲刈りは、随分遅いですね。周りは全部終わっていて、残っているのは鶴巻さんのところだけですね。忙しくて稲刈りが遅れているのですか。と私が尋ねたところ、鶴巻さんは、笑って、
「いや、そうではありません。 鳥たちにも分け前をあげなきゃいけないので、収穫を遅らせているのです。」
といったのです。
「お米が実ってとれるまでには、鳥たちも虫をとってくれたり、 いろいろ協力してもらっているんでね。その分け前ですよ。」
田圃には確かにすずめなどが鈴なりという状況で、鶴巻さんの無農薬のお米を大騒ぎして食べているのです。
どのくらい食べますかね、と私が尋ねると、うーん、1割かなぁ。2割まではいかないと思うけれど、鳥たちも生きていかなればならないし、春になれば家族も生まれるしね。というような話をされたのです。
有機農業は、自然との共生、生態系を守る農業、収穫量を上げて儲けるということを考えてやる農業ではないことを私に教えてくれたのです。
鶴巻さんに限らず、私の知る多くの有機農業の生産者は、このように自らの信念を持ち、有機農業を自分の人生の生き方そのものとして誇りを持ち、決して恵まれることのない状況にあっても妥協することなく、周りには変人扱いされながら、安全でおいしい農産物を作り続けたきた、そして今も作りつ づけている人たちです。

 2000 年6月「改正JAS法」が施行され、農産物等の有機認証制度がスター トしました。「偽表示」や「デタラメ表示」に対する不信感などに対して行政が対応した表示制度です。現在、この有機認証制度ができてからは、この表示のみが「生産者」と「消費者」との関係において絶対的なものであると いうようなとらえられ方をされている向きもありますが、私は有機農業というもの の本質を正確に定義づけられているものではないと考えているところです。
有機認証制度がスタートしてからの顕著な現象は、「JASマーク」はお金にな るという考え方の横行です。「売らんがための有機農業」がはじまったのです。
改正JAS法の導入前、日本国内では反対意見も数多く、その理由の1つとして、この改正JAS法が国際基準と同一のもので、欧米の圧力によるも のであるということがありました。(このことについては、後日改めてお話を致します)もちろん私たちも、生産者の皆さんも反対でした。当時、日本で最も 大きな有機農業の生産者団体も反対をしておりました。
しかし、結局のところ、農水省(現在) に押し切られ、改正JAS法は施行 されたわけです。その後、この生産者団体は、自らの認証団体を立ち上げ たのです。もちろん、名前も住所も替えて、この生産者団体とは何も関係のない形にして認証団体を設立したのです。このように実際に認証を行う 第三者期間が、有機農産物の生産者団体や有機農産物の流通業者が設立したりしているケースも多く、認証そのものの信頼性が問題で、懸念さ れているところでもあります。

県などの公共機関でも認証を行うケースも出てきていますが、俺が町の農産物を売らんがための認証が行われないことを願うばかりです。
認証機関は、改正JAS法がはじまった後、雨後のたけのこのように設立されていますが、ベンチャー的なものも多く、有機農業をどの程度勉強してやっているのか心配なところも多いようです。
この新しい改正JAS法は、先にお話をした鶴巻さんなど、志をもち、信念を持って有機農業を行っている生産者を、ただ「表示がない」ということで、有機農産物ではないと切り捨てることになりました。
私の知る限りにおいて、誰ひとりとしてJASマークをとるための行動を起こさなかったのです。それはJASマークを必要としなかったとも言いかえられます。古くから有機農業運動を実践してきた生産者には、彼らを絶対的に信頼する生活者がついていたからです。
地球人倶楽部の生産者の皆様も、ほとんどがこのような人ばかりです。
JASマークの農産物を増やしてという会員の皆様の声も届いております。
会員の皆様のご要望にはできるだけお応えをしていくことはもちろんのことですが、「JAS表示」=「安全」というような記号化された農産物が氾濫し、大手生産者団体=大手流通業者の手の中に有機農産物が埋没していくことを認めるわけには参りません。お金をかけなければ安全のお墨つきがも らえないという今の仕組みにこそ、食に対する問題が潜んでいるように思えてなりません。
長きにわたって日本の有機農業に携わり、地域の環境保全にも、食の安全にも貢献してきた生産者を評価し、守り育てていくような有機農業の認証制度の確立が望まれるものです。
次回も有機JAS関係についてのお話を引き続きしてまいります。

PAGE TOP

Chikyu-jin Club

Copyrights(C)2005-2009 株式会社プロップスジャパン All rights reserved.