コラム
吉野の山から、三種の梅が届く季節。――堀内果実園の梅仕事ガイド
一年の最初の果実が、山から届く
地球人倶楽部の一年は、梅からはじまります。
春の野菜がひと段落し、梅雨の気配が漂いはじめる六月。奈良・吉野の山々では、青々とした実をたっぷりとつけた梅の木が、収穫の時を迎えます。堀内果実園にとっても、梅は「一年の歩みの中で最初に収穫期を迎える果実」。一粒一粒、熟し加減を見極めながら手作業で摘み取られた梅の実は、山の空気をまとったまま、みなさんの食卓へと旅をします。
今年、堀内果実園から届く梅は三種類。白加賀(青梅)、南高梅(青梅)、南高梅(完熟)。それぞれ異なる表情を持ち、それぞれに向いている梅仕事があります。どれを選ぶか、何を作るか――その小さな選択から、今年の梅仕事がはじまります。
吉野の山が育む梅
奈良県南西部に位置する五條市・西吉野地域は、千本桜と吉野杉で知られる吉野の山麓に広がる果樹の里。吉野杉や檜の産地ならではの豊富な木材資源が、果樹農家の土づくりに独特の恵みをもたらしています。
奈良県吉野地方は、気候の違いから減農薬で梅の生産が可能な地域として注目を集めています。寒暖差のある山間の気候と、清らかな水。この自然条件が、梅本来の力強い香りと凝縮した旨みを生み出す土台です。
明治36年開墾から120年以上、現在6代目が園地を守る堀内果実園。冬は材木チップを土に混ぜてふかふかに耕し、花の時期にはミツバチ応援隊の力を借りて自然な受粉をすすめます。農林水産省の特別栽培農産物ガイドラインに準じ、農薬使用回数を一般の半分以下に抑え、有機肥料で育てた梅を、一粒一粒手作業で収穫する。土と人の誠実な関係から生まれた梅が、今年も届きます。
監修者:地球人倶楽部 編集部
三種の梅、それぞれの個性
白加賀(青梅)――江戸時代から続く、硬くて肉厚な古梅
白加賀(しろかが)は、南高梅と並んで国内で広く栽培される梅の品種。江戸時代から栽培されてきたとも言われ、加賀藩邸に植えられていた「加賀の白梅」がルーツとも伝わります。
果実の重さは25〜30gとやや大ぶりで、果肉は繊維が少なく緻密で肉厚。種が比較的小さく、皮がしっかりしているので、漬け込んでも崩れにくいのが白加賀の最大の強みです。酸味が強くさわやかで、南高梅の「華やかさ」に対して白加賀は「気品」という言葉がよく似合います。
梅酒にすると落ち着きのある滋味深い一本に仕上がり、梅シロップにするとできあがった梅の実ごとおいしく食べられると評判です。硬い果肉を活かしたカリカリ梅にも向いています。青梅の梅仕事をはじめてみたい方、梅酒や梅シロップをじっくり楽しみたい方にまず手に取ってほしい品種です。
南高梅(青梅)――梅仕事の万能選手、青いうちの旨み
南高梅(なんこううめ)は、日本で最も名高い梅の品種。和歌山県が発祥で、昭和40年に品種登録されました。果実は25〜35gと大粒で、種が小さく皮が薄いのが特徴です。
青梅の段階では、鋭くさわやかな酸味と青々とした香りが特徴。白加賀に比べてやや果肉がやわらかく、シロップへのエキスの出方が早いため、梅仕事の初心者にも取り組みやすい品種です。梅酒にすると、白加賀とはまた違う、華やかで芳醇な香りが楽しめます。梅シロップ、梅酒どちらにも向いており、青梅ならではのすっきりした酸味を最大限に引き出してくれる、まさに梅仕事の万能選手です。
南高梅(完熟)――黄色く熟して、とろける梅干しへ
同じ南高梅でも、完熟まで待った果実はまったく別の顔を持ちます。黄色く色づき、桃のような甘い芳香を放つ完熟南高梅。手に取るとずっしりと重く、皮の薄さと果肉の充実感が伝わってきます。
梅干しにするととろけるような食感になる、と言われるのはこの完熟南高梅のこと。塩だけで漬けたシンプルな梅干しが、これほど豊かな風味を持つとは、はじめて作った人は必ず驚きます。種が小さく果肉がたっぷりなので、一粒の食べごたえもじゅうぶん。完熟梅シロップにすると甘くふくよかな香りが立ち、梅ジャムやコンフィチュールにも最適です。梅干しだけは完熟で、と決めている梅仕事の愛好家が多いのも、うなずける話です。
梅仕事のはじめかた
「梅仕事」という言葉が好きです。仕事、という言葉に込められた、丁寧に、ていねいに、季節と向き合う姿勢。毎年六月になると梅を漬ける、それだけのことが、台所を豊かな場所に変えてくれます。
梅酒(青梅1kgの場合)
青梅1kg、氷砂糖500〜700g、ホワイトリカー1.8L。煮沸消毒した瓶に梅と氷砂糖を交互に入れ、ホワイトリカーを注ぐだけ。冷暗所で3ヶ月以上待てば飲みごろに。1年置くと味がさらに深まります。白加賀なら気品ある一本に、南高梅なら華やかな一本に仕上がります。
梅シロップ(青梅1kgの場合)
青梅1kg、氷砂糖1kg。梅はヘタを取り、竹串で数箇所穴を開けてから瓶に詰め、毎日揺すってシロップを混ぜます。10日〜2週間で完成。炭酸水で4〜5倍に割れば、夏の疲れた体にすっと染み渡る一杯に。完熟南高梅で作ると、甘くふくよかな香りのシロップになります。
梅干し(完熟梅1kgの場合)
完熟南高梅1kg、粗塩180〜200g(塩分18〜20%)。梅を塩でまぶし、重石をのせて梅雨明けまで待ちます。土用の晴れた日に3日3晩干せば完成。添加物ゼロ、自分で仕込んだ梅干しの豊かさは、手間をかけた人だけが知る贅沢です。冷蔵で1年以上保存できます。
おわりに
吉野の山で120年以上の時をかけて育まれてきた、堀内果実園の梅。土を耕し、ミツバチに頼り、一粒一粒を手で摘む。その営みの積み重ねが、三種それぞれの梅の実に宿っています。
わたしたちの身体は、毎日食べるものでできています。梅干し一粒、梅シロップの一口。そこに込められた生産者の誠実さが、そのまま自分の身体へと届いていく。そう思うと、台所での梅仕事の時間が、なんだかとても豊かなものに感じられてきます。
六月の短い季節にしか出会えない梅を、今年こそ台所に迎えてみませんか。
地球人倶楽部では、堀内果実園の梅(白加賀・青梅南高梅・完熟南高梅)をお届けしています。
旬の時期限定のため、お早めにどうぞ。