コラム
毎日のバナナを、選びなおす。 ── エクアドル・プリエイト農園のスイートバレリーが教えてくれること
バナナは、何気なく買ってしまう果物の筆頭かもしれない。
スーパーで手に取るとき、値段を見ることはあっても、どこの国で誰が育てたものか、どのような処理を経て棚に並んでいるのかを考える人は、まだ少ない。でも一度立ち止まって、そのバナナの「来た道」を想像してみると、見えてくるものがある。
日本人とバナナ、その知られざる現実
日本は世界有数のバナナ消費国だ。一人あたりの消費量はリンゴに迫るほどで、国内に流通するバナナの大部分は輸入品。なかでもフィリピン産が圧倒的なシェアを占めてきた。
ところが、バナナの栽培には約220種類もの農薬が使われているという実態がある。殺菌剤・防虫剤・除草剤の空中散布はもちろん、バナナの実を包む袋には殺虫剤が練り込まれているものもある。産地では高濃度の農薬にさらされる労働者の問題も、国際機関が繰り返し指摘してきた。
さらに、日本の植物防疫法により、輸入バナナはすべて「青い未熟な状態」で入国しなければならない。そして港の検疫で害虫が見つかった場合には、青酸ガスによる燻蒸(くんじょう)処理が施される。この燻蒸処理には表示義務がなく、消費者にはわからない。有機農園で丁寧に育てられたバナナも、この段階で燻蒸されてしまえば「有機バナナ」の表示はできなくなる——それがバナナに関する、日本の厳しい現実だ。
そうした背景を知ると、スーパーで何気なく買っていた”安いバナナ”の景色が、少し変わって見えてくる。
有機バナナは、なぜ日本に1%しか流通しないのか
現在、日本に輸入されるバナナのうち、有機バナナが占める割合は全体の1%にも満たないとされている。
理由はシンプルで、難しいからだ。
有機栽培で育てるだけではなく、輸入検疫で燻蒸処理を受けないこと。有機JAS認定を受けた工場で小分け・袋詰めされること。そのすべての工程において、有機の基準が守られて初めて、消費者の手元に「有機バナナ」として届く。
農薬を使わない畑で育てること。そして、その誠実さを海を越えてそのまま届けること。それがいかに難しく、関わる人々の丁寧な仕事の積み重ねの上に成り立っているかが、この数字から伝わってくる。
世界最大の輸出国、エクアドルの恵み
エクアドルは赤道直下に位置する小さな国だ。ガラパゴス諸島を擁し、アンデス山脈が縦断するその国土は、バナナにとって理想的な環境に恵まれている。
バナナ生産量は世界第5位でありながら、輸出量は世界第1位。全世界に輸出されるバナナのおよそ3分の1が、このエクアドルから届けられている。
特に、アンデス山脈西麓のロス・リオス県一帯は、山から流れ出る栄養分が河川を通じて深く堆積した肥沃な大地が広がる地域だ。赤道直下の強い日差しと、南極から北上するフンボルト海流がもたらす昼夜の寒暖差——この自然の好条件が、もっちりとした果肉と濃厚な甘みを生む。
フィリピンから輸送すると約1週間なのに対し、エクアドルからは船で約1ヶ月かかる。それでも地球人倶楽部がエクアドルにこだわるのは、この土地と農園が持つ「本物の力」を知っているからだ。
プリエイト農園、70年の誠実な歩み
エクアドルのバナナ産地の中でも、特に有機栽培に適した低降雨量の地区に、プリエイト(PRIET)グループの農園はある。
創業者アウレリオ・プリエト・カルデロン氏がこのグループを立ち上げたのは1956年のこと。以来70年近くにわたり、この地でバナナと向き合い続けてきた。1997年には減農薬栽培を開始し、その後、有機栽培へと転換。化学肥料ではなく堆肥を使い、環境に配慮した畑づくりを着実に積み上げてきた。
有機JAS認証はもちろん、フェアトレード認証も取得している。それは単に農薬を使わないという話ではなく、畑で働く人たちの暮らしと尊厳を守るという意志でもある。
過去には日本向けに「サニートバナナ」として出荷していた経験もあり、日本の検疫基準や求められる丁寧さを深く理解しているのも、このグループの強みだ。
「バレリー種」という、失われかけた選択
スーパーに並ぶバナナのほとんどは「キャベンディッシュ」という品種だ。輸送や管理のしやすさから世界中に普及し、今やバナナといえばこの品種、というほど一般化している。
プリエイト農園が守り続けているのは、それとは異なる**「バレリー種」**。昔からエクアドルで育てられてきた在来品種で、キャベンディッシュに比べて酸味が少なく、甘みが強く、果肉がもっちりとしている。香りもよく、一口食べると「ああ、バナナってこういう味だったのか」と思わせる、奥行きのある風味がある。
効率を重視すれば、流通に適した品種に統一するのが合理的だ。でも、農園はそうしなかった。手間がかかっても、昔ながらの品種を絶やさないという選択を、今も続けている。
届くまでの、すべてに意味がある
このバナナが食卓に届くまでの道のりを、一度たどってみてほしい。
エクアドルの肥沃な大地で、化学農薬を使わずに育てられる。検疫で燻蒸処理を受けることなく、有機の証明を保ったまま、約1ヶ月の航海を経て日本へ。有機JAS認定を受けた工場で丁寧に袋詰めされ、やがて青い状態で届けられる。
青いまま届くのは、規則だからではない。それが本来の姿であり、その後に自然の流れで追熟させてから食べることで、土地の力がいちばんきれいに舌に届くからだ。
毎日食べるものだからこそ、その背景を知ることが大切だと私たちは思っている。
安いからではなく、どこで誰が、何のために育てたのかを選ぶこと。プリエイト農園のスイートバレリーバナナは、そのような選択をしたいと思っている人たちへの、エクアドルからの誠実な答えだ。
監修者:地球人倶楽部 編集部